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医療の点と線

医師の品格と揺れるプライド

このコラムでは医療の技術的進歩を解説するつもりはありません。むしろ、医療における私の考え方や意見、私自身の独断で「これは医療の変革をもたらす考え方、技術、治療法」と感じたことを折に触れて、書いてみようと思います。

第一回目は、「医師の品格と揺れるプライド」と題して、最近の不安定な世相の中で医師としてどのように力を尽くしていくべきか、私が先達から学ばせてもらったこと、私なりの考えを述べたいと思います。

宇沢弘文先生が著された「社会的共通資本」にあるとおり、医師はその職業的倫理を明白な形で維持し、また専門家としての科学的見地、技術的習熟をもち、すぐれた人間的資質の持ち主であるという前提があります。そのため医師は常にオフィサーとしてのプライドを持つよう心がけ、専門家や社会からの厳しいチェックに基づいた厚い信頼性を勝ち得るものと信じてきました。
この伝統的絶対的とも言える前提が現代社会で揺らいでいます。
この原因の一つが医療制度上の矛盾にあることは間違いないと思います。医療費対策に市場経済的手法を強引に推し進めると、医療機関では経営的な観点から診療行為を選択せざるを得なくなり、その結果は医師の職業倫理観と相容れないものになります。

希少資源である医療が社会的に大きな価値を生み出すためには、医師の倫理観が貫ける社会でなければなりません。このような体制なくして医師の品位だけ取上げて批判し、官僚的な判断で社会的倫理規定や法的制度基準を作成しても、何等根本的な解決にならないのは明らかです。

従来から勤務評価など無縁と考えられてきた医療でも、医師は一般と同じ手法の勤務評価を押しつけられるようになっています。外来診療患者数、診療報酬出来高、など経営的な指標上の成果がその業績のひとつとして考えられる様になってきているのです。言うまでもなく医療の目標は治療の質とその向上にあり、これを学問的に解明して広く患者に貢献することが重要と教育されてきました。ところが、今や医師の背中にはコンサルタント的経営分析評価がひそかに監視しています。こういった手法は大学病院でも幅を利かせているようです。本来、臨床と研究は同じ線上にあるはずですが、診療は勤務、研究は自己研鑽と区別されてしまうようになると、研究熱心で責任感の強い人医師でも精神的に追い込まれてしまいます。医師の過労死の問題もこのようなやりがいが削がれている側面があるようです。

その上医業はサービス業と勘違いされ、航空機会社の接客方法をそのまま取り入れることが行われています。本来医師と患者さんとは対等な関係です。病気に病んだ体と心を真剣に治療し、ケアに当たる医師ほど接遇と言われれば言われるだけ、本来の倫理的な医療目標を見失うことになり、精神的に疲れる結果になってしまいます。文頭にも紹介しましたが、医療は貴重で稀少な社会資源です。一旦荒廃すると復帰は容易でないものです。最近になって厚労省も医師数不足を認め、首相も医師数の増員を政策目標に挙げるようになりましたが、数の問題だけではありません。「医師は常にオフィサーとしてのプライドを持つよう心がけ、専門家や社会からの厳しいチェックに基づいた厚い信頼性を勝ち得るものでなければならない。」という前提が守れない社会では良い医療は育たないと思います。患者の暴言、診療に対する支払拒否、いわれのない訴訟など本来あってはなりません。このような医療の質に対する社会的誹謗が解消されるように環境を整備することが求められます。

最近、書店では「○○の品格」シリーズが人目を引くほど平積みされていました。医療の改善、回復には「患者としての品格」も重要だと訴えたいところですが、問題はその程度では済みません。大きく考えれば日本社会に文化的にLOHASな心が育つ環境が再生されなければ改善は期待できないと思います。今不安定な世相によって利己主義、拝金主義を容認する偏った風潮が吹き荒れています。医療もいやおうなくこの中に巻き込まれると言えますが、新しい夢や期待のもてる技術の開発がそれを打開するきっかけになってほしいと願っています。そこに人を生かす医療の再生があることを信じてやみません。