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医療の点と線

第3回 更年期医療の今後の目標と現状 その2

前回に続き、更年期医療の今後の目標と現状 その2をお届けします。

年代別d-ROMs値と女性特有の要素について

Q. 4月に行われた酸化ストレス・抗酸化セミナーで、先生は「卵巣機能の低下は酸化ストレスと関連因子にどのような変化を与えるか」というテーマで研究発表されましたが、それについてもお話しいただけますか?

まず申し上げたかったのは、産婦人科の領域で、女性のd-ROMs(※1 参照)・BAP(※2 参照)のデータが今までほとんど出されていなかったということです。正常値、そして閉経後にその数値はどのように変化するのかも測定されていません。

ですから、現状をまず分析することから始めました。20〜30代、そして、閉経して20年くらいの間で、どのような変化が起きるのか。これを知ることは大変重要だといえます。基準値が分かれば、そこからどれだけ数値が高いか、低いかにより、当初から予想している更年期障害のd-ROMsやBAPの変化が評価できるのではないかと期待しています。

面白いことに、今までのデータで調べてみると、20代から閉経10年までのd-ROMs値は全く変わらないということです。理論的に言うとエストロジェンが下がると酸化ストレスは増えるはずですから、d-ROMs値は上がりそうな気がするのですが、上がらないのです。

d-ROMs値が上がるには別のファクターが必要なのか? 動物実験のデータでは確かに女性ホルモンは酸化ストレスに対して影響していることは分かっています。人間のデータではバッファー(緩衝要因)が強く関与するといった理由もあるのかもしれません。

そのまま測定すると、何も変化が出てこないというのが正しい認識ではないのかと、今のところ私は思っています。

今年の酸化ストレス・抗酸化セミナーでデータを出された先生方のほぼ一致した意見は、女性ホルモンがある時はd-ROMsは低く、更年期以降はd-ROMsは上がるということでした。そのようなデータを出された先生もいらっしゃいましたが、どうもそうでもない可能性があるということです。 もう少し色々と要素を考えていくと、例えば、月経があるなら月経が終わってすぐや排卵の時期など、ホルモンの変動するときによって変わるかもしれません。 そのようなことを地道に調べなければ分からないのではないか、というところです。

更年期でも更年期障害の今まで知られている検査上の変化とd-ROMs値がどのように相関をするのか、また、女性ホルモンのレベルとどのように相関をするのかなども調べることが重要といえます。

それから、もう少し付け加えると、更年期障害は血管の病変ですから血管の内皮細胞に関するバイオマーカーとの関連、たとえば、LDLコレステロールの高い人はどうなっているのかなども、当然考えなくてはいけないだろうと思っています。 一般的な研究ではタバコを吸う、吸わないが、酸化ストレスを評価する上で非常に重要な要因の1つと認識されていますが、一般的に女性は男性に比べて更年期の時期にタバコを吸う人は決定的に少なく、タバコの影響はそうはないといえます。むしろ、甘いものや、コーヒーといったカフェインなどの要因の方が強いかもしれません。今まで行ってきた問診の内容を変えた方がいいのかもしれないですね。

婦人科領域で活性酸素を調べる意義

Q. 活性酸素の測定を婦人科で行うことについては、先生はどのようにお考えでしょうか?

婦人科領域において、女性に特有の身体の変化に対する活性酸素の状態を調べることは非常に重要であるし、それが女性のヘルスプロモーションの役に立つことは間違いないと思っています。そのためにも婦人科の先生方は積極的にこの項目を測っていただき、d-ROMsは女性の、特に中高年の健康にどのような意味があるのかが明らかになればと思います。

動脈硬化や女性に増えている糖尿病に対してはどうか、あるいは骨が減りやすい人のd-ROMsはどうかなど、相関を出していくといいでしょう。 たとえば、骨粗鬆症ですが、これは心臓の病気いえます。骨粗鬆症で骨が減るのは骨からカルシウムが飛び出してくるからです。カルシウムが血管内膜に沈着すると動脈硬化となるのです。ですから、骨粗鬆症の人は心筋梗塞の発症率も高いですし、動脈硬化や尿管結石にもなりやすいことがわかっています。

糖尿、動脈硬化、高コレステロール、それに骨粗鬆症の4つはすべてサイレントで初期段階では症状がありません。女性の患者さんも多いわけですが、そのようにサイレントな状態から治療に対して理解していただく、治療効果を見ていき、「この治療によって活性酸素がこのように下がった」と納得していただく。d-ROMsテストとBAPテストの測定値を1つの指標として活用していくことは、これからの婦人科領域の医療に大変役立つことと思っています。

※1 d-ROMsとは活性酸素代謝産物です。脂質やたんぱく質などが酸化されることでできてくるものです。これを測定できるように開発したのが、ウィスマーの機械です。

※2 BAPテストとはビタミンCやEのような抗酸化物の総合的な測定をする方法です。血液や野菜や果汁のような液体にある抗酸化力が簡単に測定できます。

この2つの方法を同時に測定することで、酸化ストレスと抗酸化力のバランスを見ようというものです。